学会案内 大会 紀要 セミナー 関連学会

■ 第32回大会報告

大会準備委員長 加賀美 常美代(お茶の水女子大学)

2011年6月11日、12日の2日間にわたり、第32回異文化間教育学会がお茶の水女子大学で開催されました。多くの会員の方々のご支援、ご協力のおかげで滞りなく進行し、大会準備委員長として安堵しております。

今年は東日本大震災の影響もあり、開催も危ぶまれましたが、参加者数は320名で、スタッフ・招待者等54名を入れると、合計374名を超える大会への参加がありました。12日の公開シンポジウムは一般の方々を含め、270名以上の方が参加され、このテーマに多くの方々が関心を持ってくださっていることが確認でき、また、有意義な学術交流ができ本当にうれしく思っております。ほかに10日はプレセミナー、11日は特定課題研究、12日は大会企画講演会、大会企画公開ランチトーク等、どれも盛況で滞りなく終えることができました。

公開ランチトークの「被災地からの緊急報告」の後行われた募金活動では、34,613円が集まりました。この皆様からの募金に、さらに大会校から15,387円を付加して、地震や津波で被災した子どもたちを支援している「あしなが育英会」に50,000円を寄付いたしました。この場を借りてご協力くださいました皆様方に心より御礼を申し上げます。

上記以外に、個人発表は44題目、共同発表が9題目、ポスター発表が15題目、ケースパネル3題目の71の発表が行われました。いずれの研究発表も、異文化間教育研究・実践として示唆に富むものばかりで、学会員の積極的な姿勢を見ることができました。

大会事務局は、大会副準備委員長の守谷智美、事務局長の岡村郁子を中心とした少人数で、ほぼ1年にわたって、大会運営全体の準備を進めてきました。特に、学会開催当日は、加賀美研究室の大学院生22名とそれ以外に17名の有志の学生たちがサポートしてくれました。なにぶん、大会運営については不慣れな上、また、小さい女子大学で参加者の皆様にはいろいろとご不便やご迷惑をおかけしたかもしれませんが、ご容赦ください。

本大会にご協力くださったすべての会員の皆様に心よりお礼を申し上げます。次期大会校の立命館アジア太平洋大学(APU)で再会できることを楽しみに、最後のご挨拶とさせていただきます。




公開シンポジウム報告
偏見の形成メカニズムと低減のための教育
―誰一人切り捨てられない社会の構築に向けて―
加賀美 常美代(お茶の水女子大学)

 2011年6月12日に行われた第32回大会公開シンポジウムは、偏見形成のメカニズムと低減のための教育実践をテーマに、理論と実践の両面から、また、当事者性を考慮しながら検討していくことを目的に行われた。加賀美常美代(大会準備委員長:コーディネーター)が進行役となり、シンポジストの佐藤千瀬会員(聖学院大学)、手塚章太朗氏(ユニークフェイス)、工藤和宏会員(獨協大学)、浅井暢子氏(東北大学)に登壇していただいた後、横田雅弘会員(学会理事長)によるコメントをいただいた。
 聖学院大学の佐藤千瀬会員は、日本の幼稚園で日本人幼児と外国人幼児(片親または両親が外国籍の子ども)が、どのような前偏見(幼児独自の偏見)を形成するのかを事例、フィールドワークを通して明らかにした。異文化接触の場での保育者の重要性を認識させられた。
 ユニークフェイスの手塚章太朗氏には、当事者の立場からこれまでの人生を振り返り、差別体験と偏見の可能性を語っていただいた。見た目に問題を抱えた人がどのような差別を受けているか、まずはその語りを傾聴し認識することを聴衆とともに共有した。
 獨協大学の工藤和宏会員は、ヒューマンライブラリーの実践を通して、運営者である学生がどのような気づきを得たか、「他者」との半構造的対話を通した偏見低減の可能性がどのようなものか、データから示した。実際に運営した学生も参加し、「本、読者、スタッフ」という関係からそれを乗り越える可能性が示唆された。
 東北大学の浅井暢子氏は、社会心理学の知見に基づき、偏見の形成過程とその低減方略について理論的に概説した後、ほかの3名のシンポジストの実践、研究結果、当事者の声をもとに、理論的に解釈し考察した。
 以上のとおり、本シンポジウムでは、幼児期からいかに偏見が形成され、それが固定化され、個人を苦悩させ、また、個人と個人を取り巻くコミュニティへと影響を及ぼしていくか、シンポジストの方々の発表から、そのことを深く考えさせられた。偏見を低減していくために、私たちは個人の多様性を理解し、どのようなコミュニティを作っていったらよいか、学会としても今後もこのテーマを継続して扱っていけたらと思う。

*本大会公開シンポジウムは、2011年度公文国際奨学財団による助成のもとで行われた。報告については、2012年に書籍として刊行される予定なので、これも併せて参照していただきたい。




特定課題研究報告
川ア 誠司(東京学芸大学)

 今年度の特定課題研究では、昨年度のテーマ「異文化間教育におけるエクイティ」を継続発展させ、「異文化間教育におけるエクイティ―高等学校教育における公正さの構築―」として具体的な教育実践における「エクイティ(公正さ)」について検討することとした。研究委員会が同一のテーマに二年連続で取り組むことは大変稀なことであり、「エクイティ」は私自身の研究テーマでもあるために、相当の気合と覚悟で準備と大会に臨んだつもりである。
 昨年度の大会では「公正解釈」をキーワードとして、学校現場でどのような「エクイティ」の解釈が行われているか、事例をもとに議論を展開した。「エクイティ」は定義的理解になじまない概念であるために、当事者や実践者たちの「語り」や「行動」を取り上げて事例の考察を行い、帰納的に「エクイティ」の把握をする必要があったからである。ところが当日はフロアとの議論がかみ合わず、「エクイティ」の定義的理解を求める意見なども出されて、われわれ研究委員会の意図を十分に伝達することができなかったという反省が残された。研究委員の多くは午後の分科会に出ることもせず、フロアの何人かも加わって奈良の街なかで明るいうちから飲んでいた。「エクイティ」について語っていると、皆よくわかると言うのである。十年前の大会で「異文化間トレランス」をテーマに掲げたときの私の発表でははっきりしなかったが、今はよくわかるようになったという人もいた。
 このようなこともあり、さらに研究委員会で検討を深めて、今年度も引き続き同一のテーマに取り組むことにした。
 高等学校は、生徒、社会、制度、組織などといった葛藤の要素・要因や、いくつもの葛藤のプロセスを見出すことのできる段階でもある。小学校、中学校に較べて、集団よりも個への対応をより多く求められる段階であり、制度との狭間で教師や生徒が悩む局面も見られることから、学校現場における公正解釈の事例を収集するのに適当であると考えた。高等学校における実践の中で、「エクイティ(公正さ)」が教師たちによってどう構築され、どう共有され意識化されているかについて事例をもとに考察することを目的とした。内容は、角田仁会員(東京都立小山台高等学校定時制)による「外国につながる生徒の受入れをめぐって―夜間定時制における公正と共生」と、稲田素子会員(東京学芸大学国際教育センター)による「帰国生徒の受け入れにおける公正さをめぐって―実績のある受け入れ高校を事例に」の二報告であった。事情で一報告が欠けたため、コメンテーターの池田賢市会員(中央大学)にも急遽報告をお願いし、「フランスの教育政策にみる『公正』の考え方」について話題を提供していただいて内容に厚みをもたせることができた。フロアからは昨年度よりも踏み込んだ意見や質問が出されたことから、多少なりともテーマについてのより深い理解を共有することができたのではないかと思う。
 本学会の設立の経緯や守備範囲とする分野に照らして、この二年間のテーマが適切であったかという疑問も私的に、また非公式に耳にした。教育基礎学系の人たちによってつくられた学会であることは承知しているが、そのようなことはもはや重要なことではない。どのような専門にあっても、子どもたちの学びや成長に深く関わる部分を問題にしないわけにはゆかない。本学会の特徴である学際的なアプローチを積極的に駆使して取り組むことこそ本学会の使命ではないだろうか。

*大会に先立って、4月には公文国際奨学財団による援助を得て、「高等学校における異文化間教育実践―授業における公正・多様性の理解をめざして―」と題する公開研究会を研究委員会主催で行った。まもなく報告書が刊行されるので、併せて参照していただきたい。




プレセミナー「初学者のための調査的面接の技法入門」を受講して
時任 隼平 (関西大学大学院)

 私は、今回参加したプレセミナー「初学者のための調査的面接の技法入門」を通して、初心に戻って質的面接技法を考え直すことができました。特に、参加者同士で実際に行った半構造化面接の体験により、改めて面接することの難しさと楽しさを実感することができました。
 プレセミナーの前半は、質的面接技法を用いる上で重要となる基本的な心構えやインフォーマントとの関係性の構築の仕方、問いの作り方等について教えて頂きました。私は、普段の研究活動で質的面接技法を活用することが多く、慣れすぎてしまうことによりついつい初歩的な手続きを怠ってしまったり、問いの立て方が雑になってしまったりするなどといった傾向がありました。特に,研究倫理に関わるインフォーマントのプライバシーに対する配慮について、「わかっている」つもりになっていて、実際はあまり考慮できていませんでした。しかし,今回鈴木先生のお話を聞くことにより、改めてこの研究手法が人間の活動に関するリアルで生々しい情報を収集するのに有効な反面、プライバシーの配慮等の研究倫理についてはより厳格に考える必要があるということを実感しました。
 プレセミナーの終盤は、実際に参加者同士で3名の方々に半構造化インタビューを行いました。「問い」は全てプレセミナー中に作りました。実際にインタビューを始めてみると、うまく実践することができませんでした。インタビュアー自身が如何に「問い」をしっかり持つことが重要であるのかを思い知ることができました。
 初学者の私にとって、研究手法を繰り返し勉強しすぎるということはありません。今回のようなプレセミナーに参加を続けることで、研究手法の基礎をしっかりと土台として築きあげていきたいと思います。その上で,今回のプレセミナーは、私にとって非常に有意義なものでした。

▲TOP