第27回異文化間教育学会研修会

第27回異文化間教育学会研修会
異文化理解のためのSDGsカードゲーム

案内
第27回異文化間教育学会研修会のお知らせ

研修テーマ

異文化理解のためのSDGsカードゲーム

概要

 2015年9月の国連サミットで採択された「SDGs(Sustainable Development Goals:持続可能な開発目標)」の本質をカードゲーム「2030SDGs」を用いて学びます。カードゲーム「2030SDGs」は、SDGsの17の目標を達成するために、現在から2030年までの道のりを体験するゲームです。ゲームを通して、多様な価値観や異なった目標を持つ人々がいる世界で、我々がどうやってSDGsのビジョンを実現していくのか、なぜSDGsが私たちの世界に必要なのか、そしてそれがあることによってどのような変化や可能性があるのか、を体験的に理解することができます。2030SDGsカードゲームを用いた研修は全国各地で行われていますが、その内容はファシリテーターによって大きく異なると言われています。
 本研修では、異文化間教育学会の研修として実り多きものになるよう、異文化理解に詳しく海外滞在経験が豊富な山中俊之先生を講師に迎え、海外の事例を交えながら「異文化理解のためのSDGs」をテーマに地球社会の相互理解と共生について考えます。
 「誰一人取り残さない」持続可能で多様性と包摂性のある社会の実現を目指すSDGsを本質的に理解することは、大学教育や異文化間教育に従事する皆さんにとっても意義深く、教育現場での応用に寄与するでしょう。ゲームや意見交換を通して、参加者同士の交流も深まります。奮ってご参加ください。

日時

2019年12月1日(日)13:00~16:45

場所・アクセス

大阪成蹊大学 グローバル館4階
アクセス:阪急京都線相川駅より徒歩3分(300m)
https://osaka-seikei.jp/school-bus/

活動内容

プログラム
13:00 研修開始、ファシリテーター自己紹介
13:10 SDGsとゲームについて説明
13:50 ゲーム開始
14:20 ゲーム終了
<休憩>
14:30 ゲームの振り返り(事実・感想・行動)
15:00 事例紹介
15:20 休憩
<休憩>
15:30 演習「SDGsの観点からの異文化理解の重要性」
16:10 質疑応答・Wrap Up
16:45 終了

参加費

会員3,000円 非会員3,500円(当日会場で申し受けます)

申し込み締め切り:2019年11月29日(金)
以下のURLまたはQRコードからお申込みください。
(スマートフォンからもお申し込み頂けます)
https://www.kokuchpro.com/event/6942c1504c6e566902958f0cd80eae11/

問い合わせ

中野祥子(山口大学)s-nakano@yamguchi-u.ac.jp

主催

異文化間教育学会企画・交流委員会
工藤和宏(獨協大学)・野山広(国立国語研究所)・川島裕子(大阪成蹊大学)・吉田千春(中央大学)・中野祥子(山口大学)

報告
2019年度 異文化間教育学会 第27回研修会

研修テーマ「異文化理解のためのSDGsカードゲーム」

企画:企画・交流委員(中野・川島)

◆実施日時:
2019年12月1日(日)13:00-16:45
◆実施場所:
大阪成蹊大学 グローバル館
◆実施内容:
SDGsの概要説明、カードゲーム「2030SDGs」の実施、振り返り、質疑応答、ディスカッション「SDGsの観点から異文化理解の重要性を考える」
◆参加者:
41名(会員15名、非会員21名、委員4名、スタッフ1名)
◆参加費:
会員3,000円、非会員3,500円
◆講師:
山中俊之氏(「2030SDGs」公認ファシリテーター、株式会社グローバルダイナミクス代表取締役、神戸情報大学院大学教授)

研修の趣旨

カードゲーム「2030SDGs」の参加を通じて、以下の問いに関する理解を深めた。

  • なぜSDGs(持続可能な開発目標)が今、世界に求められているのか。
  • SDGsの存在は、人類の未来にどのような変化や可能性をもたらしうるのか。
  • 多様な価値観や異なった目標を持つ人々がいる世界で、人類がどうやってSDGsを実現していくのか。

研修当日の流れ

講師及び参加者間の自己紹介

 研修は4~6名ずつの参加者がグループを構成する形で行われた。講師の山中氏による自己紹介と研修テーマの説明に続いて、アイスブレイクを兼ねたグループ内での「イニシャル自己紹介」が始まった。これは、名前の頭文字から始まるキャッチフレーズをつけて自分を紹介する方法である(例:「なるほど」が口癖の“なかの”です)。各グループからは笑い声が漏れ、すぐに和やかな雰囲気が作られた。
 今回の参加者は半数以上が非会員であり、どのグループでも新たな出会いがあったようである。参加者は、小・中・高・大の教育者が多く、「学生にSDGsを教える前に、まずは自分自身が学んでおきたい」、「今回の研修内容を自身の授業に応用したい」等の意気込みが聞かれた。

SDGsとカードゲーム「2030SDGs」についての説明

 まず、山中氏により、SDGsの概略が示された。そして、環境・人権問題、ジェンダー平等といったSDGsの各目標に関連したクイズが出題された。例えば、地球上の生物が1日に100種ずつ減少していることや、地球は6,600万年ぶりに大量絶滅の危機に瀕していることが紹介された。会場からはどよめきの声が漏れた。
 次に、「2030SDGs」のルールが説明された。このゲームでは、個々のプレイヤーが与えられたお金と時間を使って様々なプロジェクト活動を行うことで、個々に与えられたゴールを達成していく。異なる価値観をもった多様な人達がいる世界の現実を模していた。各プレイヤーがプロジェクトを実行するたびに地球規模の経済、環境、社会の状況が変化し、最終的に2030年の世界の姿があらわれていく。
 会場では、このルール説明の時点で多くの質問が寄せられ、山中氏から丁寧な解説がなされた。同氏によると、この時点でこれほど熱心に、且つたくさんの質問が出たのは初めてだという。

ゲームの実施

 ゲームは前半と後半に分けて行われた。前半は、現在から2025年まで、後半は2030年までの世界状況を表しているという。
 前半は、参加者(プレイヤー)が会場を歩き回って他の参加者とお金や時間、プロジェクトカードを交換しながら、自身のゴール達成を目指した。参加者全員で作り上げた世界は、経済が発展しているものの、環境と社会の充実度を示す数値は低かった。そのため、参加者から「個々のゴール達成を優先するあまり、世界の状況について考えていなかった」、「自分たちの行動が社会に与える影響を考えていなかった」といった反省が寄せられた。「今」(2025年)の状況がいかに変化するのかを意識し、後半のゲームに入った。
 後半も参加者間でのカード交換が行われたが、他者の目標達成に協力したり、世界状況の改善を図ろうとしたりする動きが見られた。

ゲームの振り返りと質疑応答

 参加者全員で作り上げた2030年の世界の状況を確認した。経済が最も発展していることは前半(2025年時点)と変わりなかったが、環境と社会の充実度を示す指数が前半の数倍増えるほどに、参加者が意識的に行動を変えたことが読み取れた。参加者からは「全体のバランスを意識し、影響を考えながらプロジェクトの選定を行なった」、「SDGsの“誰一人取りこぼさない”という目標に沿うように、後半は他者のゴール達成を手伝った」等の感想が寄せられた。
 また、SDGsカードゲームの方法論について、参加者から多数の質問があり、活発な議論が展開された。とくに、ゲームの方法や結果の解釈の仕方や、異文化間教育で用いられるシュミレーションゲームとの違い等についての質問が寄せられた。
 さらに、山中氏が世界各地でカードゲーム「2030SDGs」を実施した経験談も披露された。例えば、日本では経済、環境、社会のバランスが重視されがちだが、アフリカでは皆が経済の発展を最重要と考え、経済指数を上げるようにゲームが進行したこともあるという。たとえ共通のゴールを掲げていても先進国と開発途上国ではゴール達成の解釈が異なることがあるという。加えて、ジェンダーや宗教等の違いによりSDGsの目標についての解釈や重点の置き方が異なることも示された。

ディスカッション「SDGsの観点から異文化理解の重要性を考える」

 以上の内容を踏まえて、「SDGsの観点からみた異文化理解の重要性」と「SDGs目標達成のために必要なこと」について議論した。とくに、SDGsの特性や異文化理解との接点に焦点が当てられた。例えば、「SDGsの個々の目標は一見個別のものに見えるが、実際は繋がっている」、「SDGs目標達成には異文化理解と協力が必須」、「グローバル社会の中で“誰一人とり残さない”を実現するには、他者を尊重し、多様な視点で柔軟に考えなければならない」等の意見が出た。
 最後に、佐藤郡衛理事長から閉会の挨拶を頂き、研修会を終えた。

研修会を終えて

 佐藤理事長の挨拶にもあったが、約4時間の研修が非常に短く感じられた。特筆すべきは、質疑応答時間は質問者が途切れず、沈黙になることが一度もなかったこと、そして山中氏が全ての質問に答えて下さったことである。また、質問者のコメントをフォローする参加者がいたり、山中氏の返答に対してさらなる見解を重ねたりする参加者もおり、会場全体で充実した議論ができたと思う。何度も頷いたり、真剣にメモをとったりしている参加者の様子も印象的であった。
 さらに、非会員の参加も多かったため、会員間を超えた交流ができた点もよかった。今回のように、ゲームを使った体験型の研修会は、講師と参加者の資質次第で、非常に大きな学習成果を得られることも実感した。私自身は、山中先生からも参加者の皆さんからも学ばせて頂き、充実した時間を過ごすことができた。参加者の皆さんにとっても、出会いと学びの多い研修会であったことを願う。

文責:企画交流委員 中野祥子(山口大学)