2014年度特定課題研究 第1回公開研究会

異文化間教育学会第35回大会の特定課題研究第一回公開研究会を、次の通り開催いたします。文化的多様性の実践の具体例、実践の読み解き方、実践と研究のありように関心をおもちの会員の皆様、ふるってご参加ください。

第1回公開研究会

特定課題研究テーマ 「実践をまなざし、現場を動かす異文化間教育学とは」

日時

2013年12月21日(土)13:00-16:30

場所

東京学芸大学国際教育センター(合同棟)1階大教室
〒184-8501 東京都小金井市貫井北町4-1-1
東京学芸大学 国際教育センター(合同棟)
アクセス  http://crie.u-gakugei.ac.jp/03access/

テーマ

「実践をまなざし、現場を動かす異文化間教育学とは」
異文化間教育学は、実証科学と実践科学の両側面があり、両者は循環的相互作用過程をもって展開する(江渕,1997)と考えられてきた。現象としての異文化間教育の構造と過程、そして所産と結果を明らかにし、理論を構築する営みを実証科学とし、その研究成果である理論を意図的計画的教育活動の計画と実践に活かすことを実践科学とする。根底には、研究成果としての「理論」とその応用である「実践」という二項対立的な捉え方がある。
しかしながら、急速に進むグローバル化によるトランスナショナルな現実社会において、異文化間教育学は、既に、この二項対立的な捉え方で対応できなくなっている。理論と実践との関係を捉え直し、多様な文化が交差する現場で、異文化間教育の実践に参与する人々が、多様な対象との相互行為の内に捉えた知を、共有し、編集していくことこそが、今後の学としての異文化間教育を動かしていくものと思われる。そして、その営みは、実践の参与者が己の実践を意味づけ、実践を再編・創造する営みを推進することとともにある。異文化間教育学が境界の学としてあることの意味がここにあるのではないだろうか。  以上の問題意識から、第35回大会の特定課題研究では、異文化間教育学は実践をいかにまなざしているのか、そして、そのまなざしによって創造される知は、学としての異文化間教育学にどのような変革をもたらしうるのかを議論することにする。また、そのための仕掛けとして、特定課題研究の登壇者間で、ある1つの実践を、異文化間教育学の各領域の研究視点から読み解き、その交差によって多角的、多層的な実践の姿を描き出すことを試みる。これを手掛かりに、異文化間教育学の今後を展望する。

概要

第1回公開研究会プログラム
 第1回公開研究会では、文化的多様性の実践事例として就学前の文化間移動をする子どもを対象に実施しているプレスクールの実践を紹介いただく。この実践について、登壇者により、異文化間教育学の各領域の視点から読み解きを試みる。さらに、その異文化間教育学の各領域の研究視点の交差による解釈が、現場の実践的課題の解決にとってどのような示唆となりうるかを検討する。

プログラム

1 開会 13:00

2 パネルディスカッション 13:10-16:30

  • 1)実践の報告 13:10-13:40
    「大和プレスクール『にほんごひろば』」
    矢沢悦子氏 (NPO法人日本ペルー共生協会 大和プレスクール担当)

 大和市とNPO法人日本ペルー共生協会の協働開催による、多様な言語文化背景を持つ子どもたちへの就学前教育・保護者支援の活動である。11月から3月までの4か月間、週3回2時間ずつ実施されている。子どもと保護者に、就学前の準備として、日本の学校生活についての情報を提供するとともに、簡単な日本語でのコミュニケーションの力を高め、学校生活や教育活動に参加するために行動する力を育むことを目的とする。また、多様な言語・文化への接触経験を通して、文化的多様性を受け止める態度を形成することも目指している。

  • 2)実践の読み解き(登壇者間で) 13:40-15:00
    報告いただく実践についての質疑応答と、各研究領域からの分析を行う。
    山田千明氏(山梨県立大学) 専門は幼児教育、多文化保育
    田渕五十生氏(福山市立大学)専門は人権教育、国際理解教育
    野津隆志氏(兵庫県立大学) 専門は社会学、NPO研究、ネットワーク論
    ※進行 齋藤ひろみ(東京学芸大学) 専門は日本語教育、教師教育

―休憩―

  • 3)ディスカッション(来場者を交えて) 15:15-16:15
  • 4)まとめ 16:15-16:30

3 閉会 16:30

参加申込

事前の申し込みは必要ありません。

問い合わせ先

東京学芸大学 齋藤ひろみ shiromi[at]u-gakugei.ac.jp([at]を @ に変えて下さい)

第1回公開研究会の報告

 2013年12月21日(土)に、東京学芸大学において、異文化間教育学会第35回大会 特定課題研究第一回公開研究会を開催しました。参加者は、登壇者を含めて30名程度で、充実したディスカッションを行うことができました。前半は、矢沢悦子さんより、大和プレスクール「日本語ひろば」についてのご報告をいただきました。後半は、コメンテーターである山田千明氏(幼児教育)、田渕五十生氏(人権教育)、野津隆志氏(NOP研究)を囲んで報告のあった実践についての話し合いを行いました。参加者より、大和プレスクールの教育・保育の考え方や活動内容、開設経緯と運営状況等についての質問やコメント、ご自身の経験等が語られました。最後に、コメンテーター3氏による実践の読み解きと全体討議を行いました。以下に、アンケートの一部を紹介いたします。

<前半の実践「大和プレスクール『にほんごひろば』」の報告について>

  • 多様で良質のプログラム(カリキュラム)が、整備されていることに感心しました。勉強になりました。
  • DVDで子どもたちの様子を伝えていただくなど、わかりやすいご報告をありがとうございました。発表された方自身の学び(発表前後も含め)を共有できたこともありがたかったです。
  • 日々の細かな記録があってこそこのような発表ができるのだと思います。地道な努力はとても素晴らしいと思います。
  • 先端的な取り組みを聞かせていただき、大変参考になりました。また、就学前の子どもたちが抱える問題についてもお聞きできて非常に勉強になりました。
  • 学校の先生の意識を変えていく可能性も秘めていると感じました。興味深いご報告をありがとうございました。

<後半の各研究領域による「実践の読み解き」について>

  • それぞれの研究領域の“読み解き”が、大きく一つにつながるように思えました。今後も考えていきたいと思います。
  • 違う分野の研究者が、一つの実践を読み解くというアプローチは、今まで参加したことがなく斬新に思えました。自分の勉強不足で、各パネリストの専門性についての知識が欠けておりましたが、もっと知識があれば、もっと理解ができたかと思います。
  • 小グループに分かれての話し合いから、パネルディスカッションへという流れが、インタラクティブで良かったです。学校教育の現状をお聞きし、根深いことも分かりましたが、今後、社会全体で取り組まなければならないことも強く感じました。

<「異文化間教育学の理論と実践」について、感じていることや考えていること>

  • 学際的なテーマで、多様な人間が関われる良い意味でのカオス的な性格を保持し続けてほしい。「異文化間教育学」という学問の枠組みが固まりすぎると、その良さや本質が失われるのでは?というジレンマがありそうだと思っています。
  • 実践から研究へ移ってしまうと、実践の声を失ってしまうのか?もっと考えていかないといけないと改めて思いました。
  • 今日のお話で、研究者と実践者が二項対立的ではなくという話も印象に残りました。

企画:異文化間教育学会研究委員会(◎:委員長 ○:副委員長) ◎齋藤ひろみ(東京学芸大学) ○佐藤郡衛(目白大学) ○野山 広(国立国語研究所) 浜田麻里(京都教育大学) 見世千賀子(東京学芸大学) 南浦涼介(山口大学)