発達的視点から異文化間で育つ子どもの経験を考える
【主旨】
2024年度の特定課題研究では、「乳幼児期に異文化間で育つとはどういうことか―複層的な視点でとらえる―」をテーマとして研究を進めました。子どもの育ちを考えるために、保護者や子どもとかかわる保育者、発達に心配のある子どもを異文化間で育てる母親、保健師、行政の声を複層的な視点から分析を試み一定の成果を上げることができました。
今年度は引き続き、「発達的視点」を軸にしながら、異文化間で育つ子どもたちや子どもたちを支える家族や地域、環境を取り上げていきます。入園、卒園と小学校への入学、中学・高校への進学といった節目を、異文化間で育つ子どもたちはどのように経験しているのでしょうか。時間軸を持つことは、子どものこれまでの経験(母国の学校、就学前施設、中学校進学前の小学校等)を踏まえて現在のその子/その人の把握・理解につながります。子どもの頃に異文化間で育った経験を持つ人が、大人となって教育に関わったり、自ら子育てをしたりするケース等も考えられます。現在と過去の異文化間で育つ・育った経験と移動を振り返ることで、異なる文化の場がどのように交差し、成育に影響したのかなど、俯瞰的に当事者たちを取り巻く環境を考えていく必要があるのではないでしょうか。
また、子どもたちが育つ場、社会とかかわる場は、園や学校だけでなく病院、保健センター、幼児教育施設、さらに、保護者の選択によって図書館、児童館、子ども食堂、子育てひろば、教会、寺院、補習校(継承語学校・エスニックスクール)、塾(異なる教育目標に合わせた勉強・受験対策・アフタースクール)、保護者の通う日本語教室等、多様に存在します。こうした場と家庭の間を日常的に移動している子どもたちの経験を、それぞれの場にいる人たちを通して捉えることができる可能性があります。学校以外の場所だからこそ、学校教育の枠組みを越えて、長期間に子どもの育ちを捉えることが可能な場合もあるでしょう。また、マイノリティとして育つ子どもたちだけでなく、マジョリティ側の子どもたちのための異文化間教育について考えていく必要もあるかもしれません。
【登壇者およびタイトル】
・小松翠 (東京科学大学)
「日中間移動を含む中国人元留学生のライフヒストリー ―留学、子育て、就労を通じたキャリア形成」
・重松香奈 (東京外国語大学)
「大人として振り返る、国際結婚家庭での成長と葛藤― 言語発達の側面から見た自己形成 ―」(仮)
・本間祥子 (千葉大学)
「海外の日本人学校に通った子どもの経験とその後の人生における意味―大学生になった現在の視点から」
【指定討論】
岡村郁子(東京都立大学)
【日時】
2025年1月26日(日)15時~17時00分(予定)
【開催方法】
zoom開催(要事前申込)
※申し込みをいただいた方に開催日2~3日前までにZoomリンクをお送りします。
【申込先】
以下の Google Formへの入力をお願いします。
https://forms.gle/MiS3s5XZJXGbFn8P8
※本研究会の参加は、異文化間教育学会の会員に限定させていただきます。予めご了承ください。
今後、2025年6月の第46回大会での特定課題研究発表に向けて、第2回公開研究会を3月16日(日)14:00~16:00にハイブリッドで開催予定です。対面会場は東洋大学赤羽台キャンパス(予定)です。
合わせて、皆様の積極的な参加をお待ちしております。
ご不明な点や質問がございましたら、iesj.research.2023@gmail.comまでお寄せ下さい。
2025年度 第一回公開研究会報告
第一回公開研究会 2025年1月26日
2025年度特定課題研究「発達的視点から異文化間で育つ子どもの経験を考える」の第一
回公開研究会は、2025年1月26日(月)15時〜17時に、オンラインにて実施され、当日は
最大47名(内研究委員関係者7名)の参加があった。
本年度も公募形式で登壇者を募り、研究委員会メンバーで厳正に審査した結果、学問分
野や研究内容の異なる2名(重松香奈会員、本間祥子会員)と研究委員会の小松翠会員を
登壇者に、そして指定討論者として岡村郁子会員に決定された。当日は本間会員が体調不
良により参加ができなかったものの、小松会員、重松会員の登壇者2名が「発達的視点か
ら異文化間で育つ子どもの経験を考える」をテーマに、自らの調査・インタビューを通し
て得た知見を発表した。
前半では、初めに佐藤委員長による主旨説明が行われ、現在と過去の異文化間で育つ・
育った経験と移動を振り返ることで、異なる文化の場がどのように交差し、成育に影響し
たのかなど、俯瞰的に当事者たちを取り巻く環境を考えていく必要があるという理解の幅
を広げる必要性について触れた。その後小松会員は「日中間移動を含む中国人元大学院留
学生のライフストーリー 〜留学開始と子育てとの両立、学位取得を中心に〜」と題して
発表を行った。小松報告では、中国人元留学生(大学院生)を対象に、留学から子育て、
学位取得に至るライフストーリーを包括的に分析し、その過程上の課題や対処を明らかに
することを目的とし、インタビューを通して対象者の大学院留学が直面した困難と課題が
明らかに浮かび上がった。それらの課題を踏まえ、今後の日本に来る大学院留学生への教
育・支援の設計に何が必要なのかなど示唆が浮かび上がってきたと提示した。
その後、重松香奈会員は「大人として振り返る外国にルーツを持つ子どもの成長と葛藤
〜言語選択の現実と母語継承支援への展望〜」と題した研究発表を行った。重松報告では
、国際結婚家庭で生まれ育った元子どもとその親の視点を通じて、母語継承やアイデンティ
ティ形成における葛藤を捉え、多様な言語背景を持つ子どもたちの言語的・文化的成長を
支える具体的な支援策を提案することの必要性について論じた。
また事後アンケートに多数の参加者から意見が寄せられ、TEM図やライフラインチャッ
トの分析法に関心を寄せている声がある一方、今回の発表内容で応用された手法から今後
の多文化共生社会の実現に向けて有益な示唆を得られたなど、本研究会が取り組むテーマ
への参加者からの関心の高さがうかがえた。
今後は引き続き「発達的視点から異文化間で育つ子どもの経験を考える」に焦点を当て
ながら、より当事者の経験と声にフォーカスと分析をあて、多文化また異文化で育った環
境がどのように語られ分析されていくのか、また発達的な視点に意識しながら、議論を更
に発展させていく予定である。