異文化間教育学会論文賞
学会誌『異文化間教育』に掲載された投稿研究論文(テーマ論文・自由投稿論文)、実践報告、調査報告、研究ノートを対象に、2年を単位として選考される賞です。異文化間教育研究の奨励と発展のため、2020年に創設されました。
受賞者
2020-2021年度(52号~55号)
「『わたしたちのことば』に創発する居場所―留学生の逸脱的日本語によるあそびの分析から―」異文化間教育55号
井濃内 歩 (筑波大学大学院)
授賞理由
留学生同士の日常の日本語会話による相互行為の中から、「逸脱的な日本語の使用」が 留学生独自の肯定的な居場所を形成することにつながっていることを発見し、分析するという独創的な研究と高く評価された。 言語人類学を理論的基盤として、ことばのあそびに注目し、日本語日本文化研修留学生(日研生)12名を対象にエスノグラフィーによるアプローチを試みており、本研究の方法論としても適切であると判定された。 調査の結果、日研生の日常会話における意図的な誤用、若者の間で用いられるスタイル、インポライトな発話といった規範的な日本語使用からの逸脱性をもつ「日研生ジョーク」が観察され、これが彼ら独自の居場所を形成していると分析しており、ことば、異文化適応、居場所の関係に新たな視点をもたらしていると評価された。筆者が最後に記した 「今ここの相互作用のなかで動的に創発するアイデンティティ、そして越境する若者が創り出す居場所を捉えるうえでの、ことばという切り口の有効性を示した」ものとして十分に学会論文賞を授与する価値のある論文であると判定した。