理事長挨拶

今、異文化間教育学を問う

渋谷 真樹 (日本赤十字看護大学)

2024年夏

 異なる文化の接触によって生ずるさまざまな教育の問題を学問対象として取り上げるという異文化間教育学の問題意識は今、より重要性を増しています。パンデミックを経験した私たちは、国境が政府によってかくも厳格に閉ざされうること、所持するパスポートによって国境を越えられるか否かが峻別されることを痛感しています。ウクライナやガザに関する連日の報道は、国家の暴力性や和解の難しさをまざまざと見せつけ、類似の状況が他地域でも未解決のままに残されていることを思い起こさせます。日本の国際的地位の相対的な低下により、留学などのグローバルな教育経験が家庭の経済力や文化資本に左右されることが顕在化しています。パリ・オリンピックでは日本人以外の親をもつ者や海外で育った者、帰化した者などさまざまな「日本人選手」が出場し、複層化する日本人性や国家間の競争や協働について再考させられます。

 このような今、異文化間教育学の社会的意義が一層問われています。先達の知見を引き継ぎつつ、現代の文脈の中で発展させていくために、2024-25学会年度の重点的活動方針として、以下の3点を掲げます。

 第一に、多様な学問領域や研究歴の会員とともに、異文化間教育学ならではの研究課題に取り組み、研究の活性化と深化・発展に努めます。そして、その知的財産を現実社会の諸課題に向き合うために活用していきましょう。まずは、本学会が2022年に刊行した『異文化間教育学事典』を教育や社会活動など実践の場に活かすアイディアを開発し、共有していきたいと思います。

 次に、異文化間教育学に関する情報交換や研究活動をグローバルに展開していきます。本学会には海外在住の会員はもちろん、海外での研究歴をもつ会員、国際的な共同研究を行なっている会員が多くいます。すでに大会での口頭発表の1割は英語で行われていますが、研究関心を共有する研究者たちが、国境を越えて協働しやすい環境を整えていきます。 第三に、持続可能な学会運営体制の整備に努めます。委員会や事務局の業務内容の見える化をすすめ、会員や事務局員が快く効率的に学会運営に力を合わせられるようにします。互いに建設的な意見を持ち寄りながら、より創造的で生産的な学会にしていきましょう。

歴代理事長

2023年~2024年度 渋谷 真樹
2021年~2022年度 渋谷 真樹
2019年~2020年度 佐藤 郡衛
2017年~2018年度 佐藤 郡衛
2015年~2016年度 加賀美 常美代
2013年~2014年度 加賀美 常美代
2011年~2012年度 横田 雅弘
2009年~2010年度 横田 雅弘
2007年~2008年度 山田 礼子
2003年~2006年度 小島 勝
2001年~2002年度 佐藤 郡衛
1999年~2000年度 加藤 幸次
1993年~1998年度 江淵 一公
1990年~1992年度 星野 命
1981年~1992年度 小林 哲也