特定課題研究
2023年度 異文化間教育学会 特定課題研究テーマ
「移動」から異文化間教育研究を展開する
−象徴的移動に着目して−
研究委員会
2023年度の特定課題研究テーマは「『移動』から異文化間教育研究を展開する−象徴的移動に着目して」である。本年度も発表者を公募し、多くの会員から応募をいただいた。本テーマへの貢献や研究方法・内容のバランスなどを念頭に審査を行い、登壇者と指定討論者を選出した。本大会にて会員の皆様と活発な議論をし、今後の更なる展開を共に検討する契機としたい。
【趣旨】
異文化間教育学会は設立当初から「移動する人々」の教育問題を探究してきた。それらの多くは、国家間の物理的な移動に関わる海外帰国生、移民二世、留学生などを対象としてきた。一方で、人々が関与する「移動」そのものについては十分に議論されてきたとはいえない。移動する人々の経験を解明するためには、移動それ自体について理解を深める必要がある。社会科学において移動に着目することの重要性が主張されて久しいが(Urry 2007=2015など)、今一度、本学会が自明視してきた移動概念がもつ説明力を異文化間教育学の文脈において検討することが求められる。
通常、移動という言葉から連想されるのは、地域間や国家間の転地といった物理的な移動であろう。しかし、人々は物理的な移動だけでなく象徴的な移動にも関与している。例えば、社会階層間の移動(社会移動)、人生の道筋・軌跡(ライフコース/ステージの移動)、自分の人生がより良い方向に進んでいる感覚(存在論的移動)、異なる文化・価値観との接触・交渉の過程(異文化間移動)などがあげられる(Hage 2005=2007, 塩原2017など)。本特定課題研究で注目するのは、こうした「象徴的移動」である。もちろん、人々が関与する象徴的移動は上記に限られたものではない。また、象徴的移動は単独で経験されるわけではなく、物理的移動を含めた複数の移動が交差し合う中で捉える必要がある。
本特定課題研究では、この象徴的移動を切り口として、異文化間教育研究における移動の多様性と複雑性を捉えるための議論を展開したい。人々が関与する移動のバリエーションやそれらの絡み合いを紐解くことで、複数の文化的状況の間に生きる人々の経験をより豊かに分析・記述したり、かれらに対する教育実践の再構築を促したりすることが可能になるだろう。また、多様な研究者が移動概念のもつ可能性を議論することで、学問分野間の対話や相互理解が深まり、異文化間教育学における学際性(transdisciplinary)の醸成につながることも期待される。
このような前提を踏まえた上で、本大会では、さまざまな象徴的移動に焦点を当てた3つの発表を起点として議論を深めていく。会員間で象徴的移動に関する議論を重ね、人々の移動に関心を寄せてきた異文化間教育学研究の新たな展開を共に提起していくことを目指す。
※参考文献
Hage, G., 2005, “A Not So Multi-Sited Ethnography of a Not So Imagined Community.” Anthropological Theory 5 (4), pp.463-475(=2007,塩原良和訳「存在論的移動のエスノグラフィ:想像でもなく複数地調査でもないディアスポラ研究について」伊豫谷登士翁編『移動から場所を問う:現代移民研究の課題』有信堂公文社, pp.27-49)。
塩原良和, 2017,『分断と対話の社会学:グローバル社会を生きるための想像力』慶應義塾大学出版会。
Urry, J., 2007, Mobilities. Cambridge: Polity Press(=2015, 吉原直樹・伊藤嘉高訳『モビリティーズ:移動の社会学』作品社)。
【日時】
2023年6月10日(土)9:30~12:00
【場所】
東京都立大学 南大沢キャンパス
【趣旨説明】
芝野淳一(中京大学)
【登壇者】
小林元気(鹿児島大学)
塩入すみ(熊本学園大学)
山崎哲(一橋大学大学院)
【指定討論者】
郷司寿朗(長崎大学)
川島裕子(大阪成蹊大学)
【企画・運営:研究委員会】
小林聡子(千葉大学)
柴山真琴(大妻女子大学)
芝野淳一(中京大学)
青木香代子(茨城大学)
川島裕子(大阪成蹊大学)