異文化間教育学会 第46回大会
東京大学

公開シンポジウム
Symposium

グローバル・シティズンシップを問う
―異文化間教育学は民主主義にどのように貢献できるか―

 今日の世界は、環境破壊、貧困問題、人権侵害、難民の増加、経済的不平等など、さまざまな地球規模の課題に直面している。予測困難なVUCA時代において、教育には、平和・人権・民主主義・持続可能な発展を支え、これらの課題解決に向けて主体的に行動するグローバル市民を育成する役割が強く求められている。民主的で包摂的な社会を支える市民の育成を目指す教育的取り組みは、これまでも各国で展開されてきた。しかし、それらの多くは、必ずしもグローバルな視点を明確に打ち出していたわけではない。こうした状況をふまえ、ユネスコは2012年にGlobal Citizenship Education(GCED)を提唱した。GCEDは、グローバルな諸現象や国境を越えた相互依存関係への理解を深めるとともに、異質な他者への寛容や共感を育み、公正で持続可能な社会の実現に向けて、ローカル・ナショナル・グローバルのそれぞれのレベルで行動できる力を養うことを目的としている。

 一方、グローバル化は新自由主義とナショナリズムの台頭を加速させ、各国において社会的弱者の排除や抑圧が顕著になりつつある。民主主義の先導役を自任してきたアメリカでは、ポピュリズムの拡大とともに自国第一主義を正当化する風潮が強まり、社会の分断や対立を煽る権威主義的な政治体制が、民主主義の根幹を急速に蝕みつつある。こうした政治的・社会的状況が世界的に進行するなか、教育は単なる知識の伝達にとどまらず、グローバルな連帯や社会正義を実現するための重要な手段として、その意義があらためて問われている。

 本シンポジウムでは、スタンフォード大学国際異文化教育研究プログラム(SPICE)の代表を務めるDr. Gary Mukaiを基調講演者として迎える。Mukai氏がこれまで関わってきた豊富な実践事例をもとに、グローバル・シティズンシップの概念を多面的に探究するとともに、異文化間教育がいかにして、グローバルな視野と批判的思考を備えた市民の育成に貢献しうるのかを考察する機会としたい。あわせて、アメリカ、ドイツ、デンマークにおける民主主義的な教育の理論と実践を紹介し、日本との国際比較の視点も交えながら、グローバル・シティズンシップ教育の可能性と課題について議論を深める予定である。異文化間教育に携わる私たち自身が、いかにしてより包摂的で持続可能な民主主義の構築に寄与できるのかを考える、意義深い対話の場となることを期待したい。

  • 非会員の皆様のご参加も歓迎いたします(参加費無料)。

【日時】

2025年6月22日(日)13:00~16:00

【場所】

東京大学本郷キャンパス福武ホール地下2階

【プログラム】

第1部 基調講演 (13時~) ※英語から日本語へのAI同時翻訳付
Dr.Gary Mukai (スタンフォード大学):“What Does it Mean to be a Global Citizen?”
第2部 パネリストからの話題提供 (14時~)
青木香代子(茨城大学)
:アメリカにおける社会正義のための教育の視点から
中山あおい(大阪教育大学)
:ドイツにおけるグローバル・シティズンシップの可能性
原田亜紀子(東海大学)
:デンマークの対話型民主主義教育の視点から
第3部 パネルディスカッションと全体質疑・討論 (15時~)
指定討論者 渋谷恵(明治学院大学)
登壇者・フロアの参加者

総合司会:額賀美紗子(東京大学)