特定課題研究

異文化間教育における「日本」の再想像(さい)/(そう)創造(ぞう)
-越境する若者の経験―

 2020年度の特定課題研究では、越境する若者の経験に基づきながら、「日本」のあり方を再想像/創造する。もとより本学会は、文化間移動をする人の研究を蓄積し、さまざまな文化的少数者の教育問題に取り組んできた。本研究では、これらの知的財産を受け継ぎつつ、これまで本学会ではあまり言及されてこなかった、海外で育つ新二世の日本人青年を含め、在日の元留学生や、日米在住のアジア系女性を取り上げる。
 「日本」をめぐる言説の批判的な見直しは、本学会において、2000年代の前半に集中的に行われている。こうした先行研究を踏まえつつ、本研究では、越境する若者たちの「日本」をめぐる経験に着目する。「日本」というカテゴリーが立ち上がる時、連帯が生まれることもあれば、排除がおきることもある。越境する若者たちが、「日本」という空間や「日本人」という集団をいかに経験し、意味づけているのかに迫りたい。
 さらに、本研究では、「日本」を「問いなおす」だけではなく、「日本」を再び想像し、あらたに創造しなおすことによって、新しい知識や価値観を生み出そうとしている。聴き取られにくい他者の声を聴き、広く伝えることや、他者の語り方や他者への向き合い方の新しい方法を提示することなどを通して、多様な生が共に生きる新しい社会を創り出すための、研究者の貢献を考える。
 そのために、本研究では、3人の会員が話題を提供する。平井達也会員は、元留学生が日本の職場で感じる困難さや、日本人上司の対応を聞き取り、外国人も日本人も働きやすい職場を創るための提言を述べる。さらに、これらの研究結果を活用し、留学生と日本人社会人がお互いから学び合える実践的教育プログラムの開発とその内容を報告する。そうすることで、職場という共に生きる場の「創造」へと繋げたい。
 芝野淳一会員は、グアムの新二世の声を伝えてくれる。一般的な駐在家庭とは異なり、ミドルクラスではなく帰国予定も曖昧な新二世の若者は、グアム育ちであるという意識を形成しつつ、日本人意識も形成する。新二世の若者が、時間の経過や地理的移動の中で再想像/創造する「日本」の具体例を示しつつ、芝野は、異文化間教育研究者と「新しい他者」との出会い直しを読み解いていく。
 徳永智子会員は、日本およびアメリカに住む「アジア系」移民女性に注目する。故郷でもホスト社会でも生きづらさを抱えた彼女たちは、越境経験やマイノリティ性を共有しつつ、学歴や社会的ステイタスなどの特権をもつ研究者を介して、第三の国を想像する。徳永はさらに、越境する研究者の存在が、「日本」の再想像/創造にいかに寄与するのかを論じる。
 指定討論者には、中島智子会員と大舩ちさと会員を迎える。2000年代半ばに異文化間教育を問い直し、語りなおしてきた立役者である中島には、10余年の本学会の進展を批評してもらう。ベトナムやフィリピンでの日本語教師経験をもつ大舩には、越境者であり教育者・研究者である立場から、三者の提供した話題を立体的に立ち上げてもらう。

■日 時:
2020年6月13日(土)14:00~16:30
■場 所:
国際教養大学コベルコホール
■趣旨説明:
渋谷真樹(奈良教育大学)
■話題提供:
平井達也(立命館アジア太平洋大学)
芝野淳一(大阪成蹊大学)
徳永智子(筑波大学)
■指定討論者:
中島智子(元プール学院大学)
大舩ちさと(国際交流基金)